鞄が重い心配性
先日、お客様のご自宅に訪問して営業をしていたのですが、無意識にやっていたことをお客様に指摘されて改めて気づいたことがあります。
ひとつは訪問の時間。私は個人のお客様のご自宅を訪問する時には約束の時間ぴったりに呼び鈴を鳴らすようにしています。1分も早くもなく遅くもなく。たまに時報を聞きながらオートロックの「呼」ボタンを押すことさえあります。
10年以上の習慣なので自然にやっていたのですが、そのお客様に「時間を正確に守ってらっしゃってえらいわね。信頼を失うのは1秒もかからないので、今後も時間を大切になさいね」とご指導いただきました。
ちなみに、対企業との面会の約束では約束の時間には打ち合わせが始められるよう、受付には早めに行くようにしています。取り次ぎに時間がかかったり、受付から部屋まで遠い場合などはその時間も計算して。
もうひとつは鞄の重さ。鞄を足元に置いていたのですが、ちょっと席を代わってと言われ、私が立ち上がる間もなく鞄を持って移動させてくださろうとしました。しかし、団塊夫人では両手で持っても持ち上がらない。「重いわねー」と言われながら私が片手でひょいと持ち上げてテーブルの反対側へ移動。
これも最初に入った会社のころからの癖。全商品のパンフレット手渡し分と予備、全商品の説明書。それをとっさに要望されてもすぐに取り出せるよう整然と入れています。「そういえば、あれはどうなの?」とか「あの使い方忘れちゃった」とか、マニアックな要求だとしてもその場で答えたいのです。
どんだけ心配性なんだと。どれだけ網を張ってんだと。どれだけお客さんの期待を裏切りたくないんだと。帰り道に鞄の中身を見ながら自分に苦笑したのです。
しかし、訪問時間にみられる「時間の意識」、鞄の重さにあらわれる「期待への呼応の姿勢」は私が人を判断させていただくときの重要なポイントになるのかもしれないと思いました。アポに遅れる人、鞄の薄い人とは仕事をしないようにしようと思ったのでした。
なんじゃそりゃ、と思われるかもしれませんが、神は細部に宿ります。商品も経営者も名高い三鷹光器株式会社。技術者の入社試験の一部に、社員と一緒に近所の定食屋さんで焼き魚を食べるというものがあります。焼き魚の食べ方ひとつで育ち方、性格、手先の器用さなど筒抜けになると。
人間の性根は必ず外面にあらわれるってことで。気をつけます(笑)
「正」と「正」の対立
経営「戦略」という名称もある通り、ビジネス用語は戦争の用語からとられたものが多くあります。戦争物から多く学ぶことがあるということでもあります。
先日、ひょんなことから「クリムゾン・タイド」を観ました。
冷戦後の国際情勢を舞台として、ロシアの反乱軍が核ミサイルを奪取し、米国と日本を攻撃すると脅迫して緊迫、というシチュエーション。この事態に、たたき上げの艦長(ジーン・ハックマン)とエリートの新任副艦長(デンゼル・ワシントン)擁するアメリカの原子力潜水艦が緊急出動。
反乱軍攻撃のための目的海域に達した艦は、本国の指令受信中に魚雷の攻撃を受け、通信が途絶える。指令の確認を優先とする副艦長と即時核攻撃を主張する艦長は激しく対立し、艦は混乱に陥る。核ミサイルの発射命令指令をめぐって起こる内部の葛藤を描いた作品です。
数年前にも観たことがあるのですが、経営を学んだ後に観た今回は、奥深すぎて多くの問題提起を感じ取ってしまいました。
もっとも考えさせられたのは、「正」と「正」の対立です。本編の最後では「組織が本質的に抱える永遠のジレンマ」と総括されています。「2人の最高指揮官が意見を異にし、調整がつかない間に命令系統システムが崩れた。法規的は双方が正しく、双方が間違っている」と。
不確定要素に満ち溢れたビジネス環境の中では自分自身の中でも、組織の中でも「正」と「正」は対立しますが、リーダーは決断をしなければなりません。対立のなかで間をとったり、決断を先延ばしにしては命取りです。リーダーには高次の精神性をもって決断しなければならないと思わされます。
では、それがどのようにしたら養えるのか。一つの答えは出光の天坊会長いわく「歴史観」かもしれません。大局の中での人間をどう捉えるかの価値観を構築することが必要だと思いました。
もうひとつは「倫理」だと思っています。自分の心に恥じない決断を。
企業の一員として常に意識すべきことはなにか
先日、上司が会社のみんなに問いかけました。「企業の一員として働く人が常に意識すべきことは何か」と。すかさず誰かが「profit」と応じ、その上司は「That's right!」と力強く言っておりました。
まぁそれも正解だとは思うのですが、私としては、「その前段階が重要じゃないの」と思ったのです。「profit」を生むための「顧客と従業員」が私の答えだろうなぁと思ったんです。上司であるスウェーデン人を説得するほどの熱血漢でもないので黙っていましたが、ひとこと「profit」で言えるほど企業というものは簡単ではないのだろうと思っています。
「profit」について松下幸之助は「実践経営哲学 (PHP文庫)」のなかで以下のように述べています。
事業を通じて社会に貢献するという使命と適正な利益というものは決して相反するものではない。使命を遂行し、社会に貢献した報酬として社会から与えられるのが適正利益だと考えられる。
中略
企業が供給する物資なりサービスのなかに含まれている努力や奉仕が多ければ多いほど、需要者や社会に対する貢献の度合いも大きく、したがってまたその報酬としての利益も多いというのが原則だといえる。
私は利益はご褒美だと理解しています。良いものを提供してくれたからその分のお礼だよと、次も頼むねと。
そのためには需要者や社会に貢献して、満足させなければご褒美はいただけない。「profit」の大前提となる「顧客(需要者や潜在需要を含む社会)への貢献」が重視されるべきであると考えています。
ここまでが「顧客」の視点。
ここからが「従業員」の視点。
またもや引用です。バーナードは「新訳経営者の役割」のなかで、「協働における人間」について信念を表明しています。
私は人を自由に協働せしめる自由意志を持った人間による協働の力を信じる。また協働を選択する場合にのみ完全に人格的発展が得られると信じる。また各自が選択に対する責任を負うときにのみ、個人的ならびに協働的行動のより高い目的を生み出すごとき精神的結合に入り込むことができると信じる。協働の拡大と個人の発展は相互依存的な現実であり、それらの間の適切な割合すなわちバランスが人類の福祉を向上する必要条件であると信じる。
profitのためには協働を拡大させ、それに相互依存している個人の発展が必要なのです。
profitを生むためにはこの「顧客」と「従業員」を念頭に、これらへの貢献と、感情への配慮と発展を考えるのが大前提であると思うのです。松下幸之助とバーナードの権威を借りましたが、長期的に「良いprofit」を計上するためにはどうすべきか、そのためには何を「大切なもの」と捉えて経営するか、企業の成長を分ける非常に重要な土台だと思います。
官僚制の逆機能
2009年の7月から外資系ラグジュアリーブランドで働くようになって、壁にぶつかることが多々あります。
日本の権限が非常に小さく、なんでも本国にお伺いを立てなければ物事が進まないことなどは想像の範囲内。すべては客観化され、なるべく現場の人間性や声を排除して柔軟な対応を避ける。そこで働いている人たちがその考え方が染み付いていて、それが当然だと思っている。
結果、部門間のコミュニケーションが滞り、組織内で情報が流れることはなく、市場に対応できなくなっている。
これはもう完全に「官僚制の逆機能」なのではないかと。
ゼミナール経営学入門(旧版)によると、官僚制は、本来は合理的な管理・支配の制度として生み出されたとのことです。
官僚制組織では仕事は合理化され、客観化され、属人性を排除できる。仕事の予測可能性も高く、調整も容易になる。人々の専門能力を発揮することができ、組織としての統一性も維持できる。マックス・ウェーバーは最も合理的で効率的な組織だと考えたとあります。
しかし、マイナスの効果も生み出すことがあり、現在では問題とされることのほうが多いとされ、逆機能として7つ挙げられています。
- 規則や手続きの遵守が優先され、それが何のためにつくり出されたかが忘れられる
- 予測のたたない事態が回避され、臨機応変な対応ができない
- 組織全体よりも部門の利益が優先される
- 規則の客観的な適用が重視され、人間的な配慮が忘れられてしまう
- 組織の力と自分の力とが混同され、外部に対して威圧的に行動する
- 自分自身の責任を回避するために、例外的な事態に対しては、必ず上司の指示を仰ごうとするために、対応に時間がかかる
- 自分自身の担当外の仕事に関心を示そうとしない
一般的には、日常反復的な仕事の多い職場、人の出入りの激しい職場、取り扱いの公平さが求められる職場では官僚化が進むとされていますが、今のビジネスの現場ではほとんど排除されるべきと考えられているかと思います。クリエイティブな仕事を多分に含んだビジネスをしなければ誰も見向きもしてくれない現在、外資系の官僚的な組織が儲けられるのか。まあブランチだから余計なことはするなということなのかもしれませんが。
クリエイティブな仕事の能率を落とす方法
秀吉が墨俣城を築く時に、職人さん複数チームで成果を競わせて成績上位チームにご褒美をあげるということでみんなが頑張って、城が一夜で建ったという話を聞いたことがあります。いま調べると根拠がなさそうですが、私にとってはインセンティブを考えさせられた最初の話、ズッコケ小学生の頃です。
成果を出させるには目の前にニンジンをぶら下げるのが手っ取り早いと思いがちですが、逆にマイナスになるという主張です。私としてはすんなり受け入れられますが、海外では「うそつくな」とか言われるんでしょうかね。
ぜひ動画をご覧ください。
ダニエル・ピンク: やる気に関する驚きの科学 | TED Talk
経営者の決断を支える5つの要素
加護野先生が雑誌プレジデントに書かれていた「http://president.jp.reuters.com/article/2009/10/13/193DB078-B194-11DE-9AF1-68013F99CD51.php」、必読かと思われます。
なかでも脳と心をわしづかみにしたのは「現場の確かな実行力への信頼」です。これはすごい。
プリントアウトするもよし、下のリンクから買われるも良し(笑)。私はノートにメモし、手帳にメモし、紙にメモしてデスクに貼っております。
お客との距離を短く
2009年10月は安居祥策帝人元会長が日経「私の履歴書」を書かれています。数日前に帝人ボルボに出向されていたころのエピソードに刺激されました。
ボルボを日本で売るためにはエアコンが弱すぎると。日本の湿気や渋滞の様子を訴えてもスウェーデンの人達には全く声が届かず、改善が進まなかったそうです。そこで安居さんは、スウェーデンから技術者を引っぱり出して日本に連れてきて経験させたそうです。そしてやっとのこと日本向けに改良することを理解してくれ、日本で市場導入が進んだと回顧されていました。
ここでもやっぱり「お客との距離を短くする」ことが肝なのだなと思いました。「お客との距離を短くする」という言葉はTDKの澤部元社長の言葉で、ITバブル崩壊でTDKがどん底に突き落とされた時に、市場の情報をいかに取り込み、それを製品にしていくかという仕組みを構築すした際の考え方です。研究開発のプロセスをより市場に近づけたり、顧客の顧客にまで付き合いを広げたり、日常業務のなかで市場の情報を取り込む仕組みをつくり、競争力ある製品をうみだせるようになりました。
三枝匡ミスミ会長の「創って-造って-売る」の早回し、「small is beautiful」も同じ考え方だと理解しています。
「お客との距離を短く」。言葉は短いですが、かなり難しいです。ただ、企業の存続はこれだけを追求すれば良いと言い切っても良いほどの真理かもしれません。