「Merger名手」日本電産のよくできた提案書

2週間ちかく前のニュースですが、日本電産による東洋電機製造へのTOB提案(NIKKEI)を語らずしてサラリーマンしててはマズい。

日本電産はいわずと知れた統合の名手。「回るもの、動くもの」のドメインのもとに「人は減らさない、大規模な事業売却はしない」という前提で、企業を買収する。買収後はビジネスシステムを徹底的につくり直して事業を立て直す。

いままでは救済案件が先方から持ちこまれて買収にいたったり、長い年月をかけて水面下でアプローチして買収を実現させてきたが、今回の東洋電機製造はいきなり提案を突きつけた形になる。この提案(PDF)は非常に良くできている。東洋電機にとってもステークホルダーにとっても反論のしようがない提案書と言っても良い(特にTOB価格)。実現されるシナジーの根拠が薄く、もっと突っ込んだ説明が欲しいところだが、それは当事者同士で話し合われることになると思う。


東洋電機の対応は受け入れるしか無いですね。人を切らないうえに、ことごとく業績を向上させてきた日本電産。その会社からの提案を断ると株主から訴えられる可能性がある。なぜ機会を逃したのかと。しかも業績の上向かない現状を打破するための、日本電産を上まわる代替案を示して了解させなければならない。でも、どうしたって、どんな理由で断るにしても背後には「業績を二の次にして保身に走ってるだけじゃん」との姿勢が見え隠れして、批判を受けそうだ。


mergerの成功には買収前に相手方に「大きな安心」を示す必要がある。この提案書と日本電産の過去に示した姿勢では東洋電機に不安は無いはずだ。東洋電機に断る理由は無い。

日本電産はいままでのようにじっくり根回しして買収を成功させることもできたかもしれないが、これからはそうも時間をかけていられない、論理的に統合が正しいと多くのビジネスパーソンに理解させるフラッグシップM&Aとしてこの案件を仕掛けているのかもしれません。このTOBによって日本電産は新たなM&Aの世界に踏み出す。いまのうちに「回るもの、動くもの」を造っている会社の株を買っておきましょうかね。


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