起業ごっこはもうやめよう
もう3年前ですか、「日本ではベンチャー企業*1は育ちにくい」という内容のレポートを書いたことがあります。
その理由を大きくふたつの側面から眺めました。論理的思考+ベンチャー経営に携わった実体験から「その企業自体の経営にまつわる問題」と「企業を取り巻く日本における企業システム」の視点から整理しました。私見です。
異論反論がある方は「あいつバカだな」と心の中で思ってください。打たれ弱い私ですので、決してコメントやブックマークで罵倒されないよう、お願いいたします(m。_。)m オネガイシマス
ベンチャー企業経営に内包する問題
◇夢ドライブの創業
失敗するベンチャー企業の多くが「創業者の夢」にドライブされ創業しています。「こんなの思いついた」とか「これ良さげじゃね?」がきっかけとなっています。しかし、企業は顧客の需要を満たしてこそ存在意義があります。市場の需要にドライブされる創業でなければ製品やサービスは売れません。必ずしも創業者の夢の商品が売れる商品ではないということです。売れる商品こそが良い商品です。
まれに夢と需要が一致することがあり、その場合は上手くいくことがありますが、あくまで創業者の頭の中からスタートするのではなく、顧客・ユーザーの需要から出発すべきなのです。
◇自社満足のスタンス
創業したての企業はやはりお金がありません。明日のお金を稼がねば会社を存続させられないところばかりだと言っても良いでしょう。しかし、夢ドライブの商品では市場に受け入れられません。そうなると営業によるゴリ押しです。押し売りがはじまるのです。商品の力でなく、ノルマに縛られた営業マンが脅迫のように売りつけまくります。そうなると未来はありません。一時的なキャッシュは得られても、顧客の満足が得られなければ次の発注はなく、売上げが続きません。自社満足よりも顧客満足を追求できる企業でなければ、続きません。売りつけようとする会社、営業力が強みですと言っている会社、、、みなさまも思いつく会社はたくさんあると思います。
◇外部補給が病気を悪化させる
商品がヒドくても、自社満足しか求めないベンチャーでもなぜか長生きしている企業があります。それは内部に問題を抱えているのに資源が外部から供給されて生かされているからです。体の内部に癌細胞を抱えていながら栄養を吸収し続けていれば健康体に見えているかのような。
外部から供給される資源の第一は「お金」です。冷たい冷たいと言われながらも日本は中小企業やベンチャー企業には暖かいまなざしを向けています。ベンチャー向けの融資や投資、助成金などの支援は手厚いものがあります。また、お金を出したいと思っている個人富裕層は多くいます。また、後述しますが素人に近いベンチャーキャピタルがたくさんあります。キャッシュに困ったら外から引っ張ってくる方法はいくらでもあるのです。
実弾の補給の第二は「人材」です。ベンチャー企業は突飛なことをやるとマスコミが食いついてくれます。日経に少しでも掲載された日には鬼の首をとったかのように大威張りし、営業用資料となります。日経に載りさえすればあとは芋づる式にさまざまな媒体が後を追ってくれます。このマスコミが優秀でない人材を補給することになります。人材の種類は2種類で、採用されて社員になりたい人材と、取引したいとか取引企業を紹介したいという人材の2種類です。「おもしろいことやってるな」と思う人がマスコミの権威に引き寄せられてきます。しかし、このよってくる人達は企業の実態を評価しているのではなく、権威に引き付けられてきた人なので、良い影響を及ぼすことはありません。しかし、押し売り営業マンの人手には困らないという状況は生み出すことができ、生き長らえることはできるのです。
余談ですが、ダメなベンチャー企業といえ、社長は魅力的に見えることが多いです。自らの夢を熱く語り、バイタリティあふれ、いかに自社が大きくなりたいか、社会を変革するか、能弁です。これが外部補給の根拠のひとつにもなるのですが。
ベンチャーを取り巻く企業システム
◇長期相対取引
日本企業の取引は長期取引にもとづいた商習慣であると言われます。下請け→孫請けなどとがっちりケイレツ化され、決まった企業と取引を続け、価格よりもいままでの付き合いや、仲の良さなどまで重視されます。いままでの市場が既存のプレーヤーでがっちり固まった市場では、価格や性能がよほどズバ抜けたものでなければ入り込むのは難しいと言えます。これは大企業と取引する時に審査があったり、「口座を開く」という言葉があったり、「今回この会社の下請けというカタチにしてくれ」という話があったりすることからも明白でしょう。市場にとっての新参者のベンチャー企業には逆風の商習慣です。
◇未発達なベンチャーキャピタル業界
断言します。日本にいる優秀なベンチャーキャピタリストはごく少数だと。プライベートエクイティを手がけるプロ集団はわかりませんが、証券会社や保険会社の系列のVCは未発達の部類に入るでしょう。これだけ投資しなければというノルマが有るなかでまともな企業の審査ができているとも思えないし、お金を出すだけでなにもしてくれはしない。お金の外部補給で命を長らえさせてはくれるかもしれませんが、ただそれだけの存在です。ベンチャーの現場も知らないサラリーマンはベンチャー企業が健全に成長していくことには寄与しません。
ひっくり返せばアメリカのベンチャー企業が強い理由がわかる
日本のベンチャー企業の経営の問題と日本の企業システムからベンチャー企業が育ちにくい理由を述べてみましたが、ここからなぜアメリカから強いベンチャーが生まれるのかがわかります。それは企業システムをまつわる問題の裏側を見れば良いです。
長期相対取引⇄短期取引:アメリカではケイレツよりも、価格や品質など最良条件で取引が行われる。新参者でも顧客を獲得しやすい。
未発達VC⇄高度なVC:アメリカのプロVCはキャッシュだけでなく、経営の指導もしますし、取引先も紹介しますし、役員も派遣するし、成長のためにあらゆる努力を注ぎ込んでくれます。経営が稚拙でもプロVCが入ってくれれば成長が見えてきます。経営者自身がすげ替えられることもありますが。
人材流動性低⇄人材流動性高:アメリカは職を変えることに日本ほど抵抗はありません。大企業信仰も日本ほどでは。優秀な人材がベンチャーに集まります。
競争の優しさ⇄競争の激しさ:ベンチャーと言えど激しい競争にもまれます。生きるか死ぬかの競争です。負けると倒産か相手企業に吸収されます。負けまいと必死に競争を続けて企業が強くなっていく土壌があります。日本みたいに細々と生きていくことは許されないのです。
まとめ
日本ではベンチャー企業といわれるスタートアップ企業が成長するのは自社内の問題もさることながら、日本に根付いている企業システムに拠るところも大きい。この企業システムをみるとアメリカで強いベンチャーが生まれるのに日本ではなぜ難しいかということが明らかになると思います。
ベンチャー育成の政策を策定したり、業を起こすことを考えられている方は外部環境と内部環境の特質に配慮して、慎重に分析することが必要になります。また、ベンチャー企業を外から見つめる時には、チェックリストにもなると思います。
このレポートを書いた時には、日本で上手くいったベンチャー企業の例をナナオとCCCとしました。失敗のケースも分析しましたがその企業は差し障りがあるので内緒です。アメリカの成長したベンチャー企業のケースはamazon.comとしました。amazon.comの成長はそれは見事なものでした。
「日本の経営」を創るのなかで三枝先生と伊丹先生が「日本ではベンチャーが育たない」とおっしゃられたのを読んで、「間違ってなかったんだなぁ」と安心したのを覚えています。
っていうか、なぜ3年前のレポートを今さら長々と掲載してるかって?
こんなレポートを書いておきながら自分の会社が廃業しました。会社を閉じることにしました。開発したサービスが市場に存在しているので会社の存在は登記上は残り、取締役としては存在しておりますが、休眠です。はい、事実上の倒産です。
失敗経験をしたからこそわかることもあるさと、前向きに行こうと思います。が、これからどうやって生きていこうかな。あっ、これにより更新滞ります。
*1:言葉の定義を議論するのが目的ではないので、スタートアップスとお考えください。創業3年目程度以内で、新たな価値観をもつ商品やサービスを提供しようとし、高い成長を志向する経営者に率いられる企業。