ブランドのエイジング(老化)

今朝の日経のコラム「春秋」ではパイオニアについて、「やっぱりスピーカーはこれだね」と思ったことがあるものの「昔日の栄光にすがり、だいぶ前から覇気を失っていた名門」と、凋落が嘆かれていました。


イオニアの失敗の原因は、技術も経験もない薄型テレビの事業を選択し、しかも集中しきれなかったことだと以前書いたことがあります。→転がり落ちるパイオニア - 戦略のみそ zentaku blog
しかし、この日経のコラムを読んで、「ブランドのエイジング」も原因の一端だと思わされました。


ブランドのエイジングとは、いまのブランドを受け入れている人達は歳をとるということです。いま20代の若者をターゲットとして人気のブランドでも、20年後にはターゲットが40代になっているということです。年月を経ても永遠に20代をターゲットとして、20代を取り込み続ける常にフレッシュなブランドであり続けるという戦略もあるでしょうし、顧客が年を重ねるのにあわせてブランドも推移していくということがあっても良いのでしょう。


たとえば、子供服一辺倒のナルミヤインターナショナルは前者の「定めたターゲットを取り込み続ける」パターンでしょう。どんな環境においても小学生を取り込み続けなければならない。毎年毎年新しい子どもに訴求し続けなければ生きていけなくなるわけです。カリスマの大量生産という矛盾 ナルミヤ - 戦略のみそ zentaku blog


後者の「顧客の経年に併せてブランドも経年して合わせる」パターンには化粧品などが思い浮かびます。団塊世代が社会に出る時には社会人メイクをで訴求し、子どもが生まれた時には簡単化粧品を、40代以降はアンチエイジング用化粧品と、顧客の経年に寄り添ってブランドや訴求ポイントを変化させます。


さて、パイオニアのブランドエイジング。

イオニアに対して「スピーカーにこだわったオーディオメーカー」というブランドイメージを抱くのは、パイオニアのスピーカーを良品と認めることができた、1950年代〜70年代に青春を過ごした人達だと思われます。いまでは50歳を過ぎ、下手したら還暦越えをしないと「パイオニアはスピーカー」と結びつけられないのではないでしょうか。30代の私はパイオニアに対してスピーカーのブランドイメージは希薄です。私は「LDとかCDプレーヤー出してる電機メーカーのひとつ」くらいにしか思っていませんでした。


イオニアは、いまでは50歳を超えているであろう、以前にパイオニアに対して良いイメージを持ってくれていた人達ばかりに気に入られ続けようとして商品をつくり続けてきたのではないでしょうか。顧客は老化しているにもかかわらず。

あの頃に買ってくれたファンに認められるこだわりの製品を、あのファン達は高くても応援してくれるという思い込みが強すぎて、かつてファンであった人達をターゲットにして商品開発や企業戦略が組み立てられたのではないかという気がします。無意識的にかもしれませんが、刷り込みはあったと思います。


「音にこだわったオーディオ・ビジュアルメーカー」というブランディングの根っこは保ちつつ、もっともエッジのきいた人達をターゲットとするならば、どんな環境でも20代や30代に評価される商品を企画し、市場を大きくしていかなければならなかったと思います。パイオニアの凋落の原因のひとつはブランドエイジングに抗することができなかったということなのでしょう。常にフレッシュなブランドであるための戦略が描けず、組織もマネジメント層の頭も同時に老化していたと。


同じことがソニーにも当てはまると思います。ラジオやwalkmanを皮切りに、ソニー製品はエッジが効いて、企業としても革新的、チャレンジング、coolといったブランドイメージで「ソニーファン」をうみだしました。しかし、ソニーはいまでも「ソニーファンに認められるか」という視点でものづくりを続けているのではないでしょうか。しかし、そのソニーファンは40代〜60代に入っていることでしょう。40歳を超えたソニーファンの生態に縛られていては、良い商品が生まれないことは明白でしょう。かつてのソニーファンに縛られない、これからのソニーファンを新たに獲得していくための商品作りができていないことが今のソニーの不振だと思います。


ブランド、製品、企業は環境に合わせて変態しないと生きていけないという大原則を胸に刻ませられます。。。


なんか上手く説明できてない気がしますが、よい歳のとり方をするか、アンチエイジングするかどっちかってこった。両方難しいから本気で取り組めってこった。