日本のテレビは負けたように見せかけているだけ・・・と思いたい

2012年6月12日の日本経済新聞に「危機の電子立国 テレビなぜ負けた」という特集記事がありました。


工場集約のパナソニック、主力工場を合弁に切り替えるシャープ、国内生産から撤退する日立と東芝、テレビ事業8期連続赤字のソニー。「日本のテレビはなぜ敗れたのか」に迫るようです。


記事の意図はさておき、私は、「負けた」というより、「競争の軸が変わり、新天地であるコモディティの世界では激しい競争をしない戦略をとった」に過ぎないと考えています。


この競争の軸は、「テレビ間でのきれいに映す競争」から「複数ある情報表示ツール間での利便性の競争」に変わったと思います。


ヨドバシの取締役は、「きれいに映す競争に熱中して、消費者を楽しませることを忘れていた。」と言っていますが、「きれいに映す」ことが競争の軸であった環境では、メーカーは「いかにきれい映すか」で消費者を楽しませてきたと反論したいです。過去の日本メーカーの「いかにきれいに映すか」を差別化のポイントとする競争の軸は、決して間違っていなかったと思います。


競争の軸が変わる潮目は2005年のyoutubeの誕生、2006年のワンセグの誕生、2009年のバックライトLED化でしょうか。youtubeワンセグにより、コンテンツはテレビでなくても良い、「きれいに映す」よりも利便性、という価値観が創造されました。その価値観が高まっていくなか、「きれいに映す」ための技術的な競争がLED化によって頭打ちとなりました。これ以上の品質の改良は消費者的には大きな差と映らなくなりました。
(そういう意味では2010年に手を打っていてほしかったです)

その3つの潮目から、テレビはケータイやスマホipadタブレットPCなどと利便性を競って勝たないといけなくなった。


同時に、テレビの補完産業であるコンテンツ産業の凋落が、テレビを「複数ある情報表示ツールのひとつ」にしてしまう拍車をかけました。テレビの前にじっくり座って見たいと思う番組はあるのか、「きれいに映す」意義のある番組があるのか。コンテンツに時間とお金を費やす意義を感じない価値観の発生がテレビの価値をさらにおとしめたのでは。


日本メーカーは環境変化による競争の軸の変化によってテレビ産業がコモディティ化し、利益率も落ちてきたので、「複数ある情報表示ツール間での利便性の競争」に多大の資源を割くのではなく、そこそこの利益が出ればいいやというくらいの資源配分にシフトしたまでの話なのではないでしょうか。


プロダクトライフサイクルが成熟期に突入したら、成長期に確立したブランドロイヤリティを活かして、獲得した顧客は離れにくいように、相手の顧客を奪うように戦略を組み立てるのが定石です。
「品質」の基盤で獲得した顧客を「利便性」で引き続き囲い込めれば良い。「利便性」はアイディア次第でいくらでも作ることができるうえに模倣もしやすいので、他メーカーが提案した「利便性」に追随していけば、大きな資源を投入しなくても利益が確保できると踏んだ。
今までのような市場を立ち上げるための多大な資源を投入してきた戦略から、費用対効果を配慮したコツコツと利益をあげられるような戦略にシフトしたとみれば、そんなに悲観的になることもないだろうと思うのですが。

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